千葉家庭裁判所 昭和42年(少イ)2号 判決 1967年5月10日
被告人 出口よし
主文
被告人を罰金六千円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は船橋市宮本町一丁目九十番地において、バー「慶」を営業しているものであるが、昭和四一年一二月五日頃から昭和四二年一月七日頃までの間、右バー客室において、女給として雇い入れた満一五歳に満たない○藤○子(昭和二七年一月八日生)をして酒客の相手をさせ、もつて児童に客の酒席に侍する行為を業務としてさせたものである。
(証拠の標目)(編 省略)
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は被告人が右○藤○子を使用するに際し、同女が一五歳未満であつたことを知らなかつたことにつき、過失がなかつたものであると主張する。
第一に弁護人は判示雇入れに際し、○藤○子がその実姉○藤△子(昭和一九年一〇月一八日生)の氏名を詐称していたものであつて、被告人は船橋市役所戸籍係吏員に問い合わせをしたところ、○藤△子が実在の人であり、生年月日が符合していたため、○藤○子の言を信じたものであると主張するけれども、バー等の女給応募の女性中には氏名年齢を偽る者が相当多いことは周知の事実であり、被告人は○藤○子がその述べた年齢より若年であるだろうと危ぶんでいた事実がありながら、同人の戸籍謄抄本、住民票謄本、米穀通帳その他身分を証すべき書類のいずれかの提出を求め、または保護者に問い合わせるなど年齢確認につき適切な方法を講じなかつたものであつて、右年齢確認方法についての注意義務は風俗営業者に当然課せらるべきものであつて(前記被告人が船橋市役所戸籍係吏員に対し、○藤△子の生年月日の問い合わせをしたとの被告人の当公廷における供述は突如なされたものであり、且つ具体的説明を欠いているため措信し難く、仮に該事実があつたとしても前記注意義務を尽したものとは認められないところである)、前記年齢確認方法を履行しなかつた以上過失がなかつたとの主張はこれを容認することができない。
第二に弁護人は風俗営業者の女子従業員雇入れにつき、監督官庁において、前記年齢確認方法の履行につき、放任し自由化させ、適切な行政指導を欠いていると主張し、右行政指導が一般的には充分でない事実は確認し得るところであるが、児童福祉の理念よりして行政指導のいかんに拘らず児童の保護育成に努める責任は風俗営業者に重く課せられるものと謂うべく、被雇用者の年齢確認の義務は、行政指導の不備により、免責となるものではない。
以上の次第であつて、本件弁護人の主張は採用の限りでない。
(法令の適用)
法律に照らすと、被告人の判示所為は児童福祉法第三四条第一項第五号、第六〇条第二項、第三項、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するから、所定刑中罰金刑を選択し、所定金額範囲内で被告人を罰金六千円に処し、被告人において右罰金を完納することができないときは刑法第一八条により金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人の負担とする。
よつて主文のとおり判決する。
検察官荒井不二夫出席
(裁判官 植田秀夫)